私達は1週間でクレジットカード1枚分に相当する5gのプラスチックを体内に取り込んでいる。
これがもし現実だとしたら_________。
近年ニュースでよく耳にする「マイクロプラスチック」。
人間が使用したプラスチックごみが海に流れ、細かくなったプラスチックを魚などが餌と間違えて食してしまうなど海洋汚染が特に注目されていますが、これは海だけの問題ではありません。
実は、私達の身近なところでもマイクロプラスチックはたくさん潜んでいて、知らない間に体内に取り込み、蓄積されている可能性が高いのです。
人間が取り込んでいるとされる量は1週間でおよそ5g。
クレジットカード1枚分。ペットボトルのキャップであれば1個が2g~2.5gほどなので、およそ2個を1週間で食べているということに。
ではどこでどのように摂取しているのでしょうか。
プラスチックの明と暗
日常的に使われているプラスチック。
ペットボトル、食品トレー、レジ袋などなど、私達の生活と切り離せないほどに密接な関係があります。
プラスチックは様々な形に変形させやすいため幅広いニーズがあり、量産もしやすいのでコストを抑えられる優れモノ。その上軽い、錆びない、腐らない、水を通さないなど利点がたくさんあるので今まであらゆる場所で当たり前のように大量に使われてきました。
身近なところでいくとスーパーの食品トレーも便利ですよね。様々な色形があって見栄えもよく、どれだけの種類があるのかというほど食料品によって使い分けがされています。
しかしこの便利なプラスチックは、いったんごみになると非常に厄介な面ばかり。
腐らないため土に埋めてもそのまま。海に流されても粉々になるだけで分解はされず。焼却処分をしたとしても、主に石油を原料としているこれらのプラごみが燃えた後の二酸化炭素は地球温暖化を加速させる一因だとされているため、どちらにしても環境破壊に大きく貢献してしまう結果に。
今この瞬間にも海にはプラスチックが大量に流れ込んでおり、減速する兆しがなかなか見えてきません。
マイクロプラスチックとは
これらのプラスチックごみは、波の力や紫外線の作用により徐々に砕かれ、大きさが5㎜以下の微細なプラスチックになると「マイクロプラスチック」と呼ばれます。
肉眼で確認できるものから目に見えないほど小さいものまで大きさは様々で、これらが捨てられ、川を通って海にたどり着き、海洋生物を傷つけ死に至らせている原因となっています。
極小プラ・マイクロビーズ
私達が毎日使う洗顔フォームやボディーソープ、歯磨き粉には、古くなった角質(汚れ)を落としきれいにする効果があるとされるマイクロビーズ(マイクロプラスチックの一種)が大量に使用されています。
「毛穴の汚れをかき出す」「粒の力で歯垢を取る」「スクラブ効果」など、これらのフレーズをCMなどで聞いたことのある方も多いでしょう。これらの製品にはもちろんマイクロビーズが使用されており、その粒がどれだけ小さなプラスチックなのかは想像いただけると思います。
これらの製品100g中には数十万個~数百万個のマイクロビーズが使用されています。
使用後、家庭から下水処理施設にたどり着いてもあまりにも粒が小さすぎてフィルターを通過してそのまま海に流れてしまうこともあり、動物プランクトンや小魚達が餌と勘違いしてそれらを食してしまいます。
実際に東京湾ではカタクチイワシの8割の内臓からマイクロプラスチック・マイクロビーズが検出されており、食物連鎖に影響が出ているという声も。
記事を読みたい方はこちら→カタクチイワシの8割からプラごみ 東京湾で、国内初
世界中の海に流れ出るマイクロビーズは年間で数百万トンと言われており、事態は深刻です。
マイクロプラスチックの元は主に2種類
①マイクロビーズを含んだ商品のごみ(最初から小さいプラスチックごみ)
②元々大きかったプラスチックが、紫外線や波の力を受けて劣化し細分化されたもの(途中で小さくなったプラスチックごみ)
①も②もひとくくりに「マイクロプラスチック」とされています。
プラで溢れている現代の生活
微細なプラスチックごみは家庭内からもどんどん排出されています。
食器洗い用のスポンジのほとんどは繊維状のプラスチックでできており、使っていくうちに摩耗した繊維が下水へと流され、下水処理場をすり抜けた繊維は海へまっしぐら。
「洗剤いらずでエコ」とされているアクリルたわしだって元をたどれば石油が原料。使用中に繊維が流されればそれは立派なマイクロプラスチックごみとなります。
冬になると大活躍のフリースやヒートテックの下着。これらもナイロンやポリエステルを原料としていて、洗濯のたびに細かい繊維も一緒に排水され、海へと流されていきます。
コロナで大活躍した使い捨てマスクも、元をたどれば原料は石油由来。
一見あまり関係のなさそうなものでも、よくよく考えてみるとプラごみにつながるものが家庭内にも結構あるのです。
日本はプラスチックごみのリサイクルがほぼできていない!?
ここで日本のプラごみのリサイクルの現状をご紹介しましょう。
日本のプラのリサイクルには3つの方法があります。
日本はごみの分別において世界でもトップクラスに進んでおり、私達も分別することでリサイクルに貢献しています。
プラスチックごみなどは加工されてまた世の中の役に立つプラスチックに生まれ変わる…と思っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
しかし…。
プラスチックごみのリサイクル方法で日本が最も採用しているのが、実は③のサーマルリサイクル。
「プラごみ燃やしてしまえ!」の方法です。
日本の廃プラスチックのリサイクル率は2016年の時点で84%でした。
84%と聞くと、かなりリサイクルが進んでいる気になってしまいますが、このうちの約7割は焼却処分による熱エネルギーとしてのリサイクル法。
廃プラスチックを再利用している実際の割合は実はたったの23%で、私達が想像するようなプラスチックリサイクルとは程遠いのが現状です。
※一般社団法人 プラスチック循環利用協会の情報を元にグラフを作成。
リサイクル率84%。「その他」はリサイクルされることもなく焼却処分されたプラスチックごみ。
グラフからわかるように、焼却処分されたプラスチックごみは73%。
私達が一生懸命分別したごみは、物から物へと変化しているのではなく、大半がただ燃やされていただけなのです。
【余談】サーマルリサイクルはリサイクルと言えるのか?
「サーマルリサイクル」は日本独自の呼び方で、海外にはそんな言葉は存在していません。
海外では焼却して発生した熱エネルギーをリサイクルとはしておらず、海外でいうリサイクルとはマテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの2つを指します。
しかし日本ではサーマルリサイクル(熱エネルギーに変える)もリサイクルとしているので、リサイクル率84%となるわけです。
驚くことに日本のマテリアルリサイクルの23%のうちの16%は、日本のプラごみを海外に輸出してその輸出先でリサイクルされたもの。
実際に日本国内でリサイクルされているのはマテリアルリサイクル7%とケミカルリサイクル4%の計11%。
日本で出るプラごみ全体の、たった11%です。
リサイクル率84%は真実ではあるけれども、世界基準と照らし合わせると11%。
高いリサイクル率とは言い難いのが現在の日本のプラごみリサイクルの現状です。
すでに体内蓄積が始まっている!?
気になるのが、これだけ大量のプラごみが地球を汚染しているのに私達に影響はないのか、ということ。
2018年10月、オーストリア、ウィーン医科大学の胃腸病学者であるフィリップ・シュワブル氏の調査報告が世界を震撼させました。
その内容は、
「世界8か国の人の糞便を調べ、その全てからマイクロプラスチックが検出された」というもの。
調査対象は、日本、オーストリア、イギリス、イタリア、ポーランド、ロシア、オランダ、フィンランドの8か国の成人。(男性3人、女性5人の計8人)
1週間の食事をチェックし調査が行われた結果、対象者全員から0.05~0.5㎜のマイクロプラスチックが発見され、その量は糞便10gに対し平均して20個ほどあったそう。
この調査結果から、世界中の大半の人体にマイクロプラスチックが蓄積され始めているのでは?と注目を集め始めました。
マイクロプラスチックによる人体への危害
私達が何気なく使っているプラスチック製品は有害な添加物を含むものもあり、たとえそれが原型をとどめていたとしてもマイクロプラスチックに変化したとしても毒性に変化はありません。
そして石油由来のプラスチックはその性質上「汚染物質を吸着しやすい」という特徴があり、これらを餌と誤って食べてしまっている海洋生物達に悪影響が及んでいます。
食物連鎖が起こるたびにどんどん濃縮されていくため非常に厄介です。
考えられる危険性
基本的に化学物質は代謝の影響を受けにくいため、体内に取り込まれた場合は一部排出されたとしても完全に外には出ていかず、脂肪に溶け込んで蓄積される可能性があると懸念されています。
※東京農工大学のグループが、胃の中のマイクロプラスチックの量が多ければ多いほど体の脂肪に含まれるPCB(ポリ塩化ビフェニル:人工的に作られた化学物質)の濃度が高い、ということを海鳥の研究から導き出しました。 参考資料→東京農工大など、海洋プラスチックが海鳥の化学汚染に直結することを立証
それは人体にも共通するだろうと考えられていて、起こりうることとしては
・発がん性
・免疫力の低下
・胎児の奇形
・生殖機能障害
・乳がん、子宮内膜症の増加 など
体が吸収したプラスチックによって多少のばらつきはあるものの、私達の身体に悪影響を及ぼすことはほぼ間違いないでしょう。
※マイクロプラスチックが人類に及ぼす影響は現在まだ研究段階です。
体内への侵入ルート
アメリカの研究グループが行った調査では、微小なマイクロプラスックがアジアや欧米の食塩やアメリカ産のビールに含まれていることが確認されています。
さらには世界13カ国の水道水から繊維状のマイクロプラスチックも見つかっています。
研究では81%の高確率で検出されており、「水道水の汚染が世界に広がっていることは大きな懸念材料だ」と世界に警告しています。
(ちなみにペットボトルで販売されている水からも検出されています)
日本はこの水道水の調査からは外れていたものの、確実に大丈夫とは言い切れません。
マイクロプラスチックを含んだ海産物を食べてしまう、ペットボトルができる過程で出た粒子を飲料と一緒に飲んでしまう、天然塩、歯磨き粉に含まれるマイクロビーズ、摩耗したタイヤなどの粉塵を埃と共に吸ってしまうなど、体内に入り込む機会はその辺に転がっていると言われています。
私達の生活が便利になったツケが、このような形で返ってきているのかもしれません。
私達のマイクロプラスチックの摂取量
オーストラリアのニューカッスル大学などは、肉眼では確認困難なほどの大きさのプラスチック粒子が、水道水やボトル入り飲料水から私達の身体へ摂取されており、その他貝やビール、塩からも摂取されていると報告しました。
さらに52本の学術論文から導き出された結果から、人間が1年間に体内に取り込むプラスチック量は推定約250グラムに上るだろうとも。
年間250g→1カ月で約20g→1週間で約5g。
私達は1週間でクレジットカード1枚分、ペットボトルキャップだと2個分のプラスチックを体内に取り込んでいるということになります。
体内汚染はあなたの身体でもすでに始まっているかもしれません。
おわりに
年間に自然界へ流れ出るプラスチックごみはおよそ500万~1300万トンともいわれており、このままいくと2050年にはプラスチックごみは魚の量を上回るそうです。
来月からはレジ袋有料化となり、プラスチックの見直しが少しずつですが進みつつあります。
【余談】少し前にTVでレジ袋を製作している中小企業をインタビューしていました。その中で、『今までレジ袋を「ありがたい」と使っていた人たちが「地球に負担をかけてけしからん」と手のひらを返して責めてくる。その変わりように驚いている』と社員の方がおっしゃっていたのが印象に残りました。
今まではあまり注目されてこなかったかもしれませんが、ここまで環境破壊が深刻になってくると今までとは違うことをしなければならなくなってきます。死んだ海洋生物の体内から出てくるのはレジ袋やプラごみが多いそう。あるクジラの胃袋からは40㎏ものプラが出てきたとの報告も。鼻にストローが刺さって苦しそうなウミガメの姿もありました。
大切なのは使ったプラごみを自然に放置しないこと。決められた方法で決められた場所に捨てること。プラスチック製品を扱う会社を責めるのはちょっと違うのでは、と思いました。
海に流れ込んだプラスチックごみをすべて回収するのは現実には難しく、流出させないための工夫や、利用そのものを控えることが今後を左右すると言えるでしょう。
私も微力ながらレジ袋は極力もらわずにマイバッグを持参したり、外でペットボトルを買わなくていいように出かける際は水筒を持参するようにしていますが、できることはまだまだあると感じています。
スーパーに行ってもプラ製品が一切使われていないものって案外少ないですよね。きれいなトレーにのせられていたり、ビニールで包装されていたり、ラップでくるまれていたり…。使われていないものって缶詰くらいでしょうか。とにかく日本は丁寧というか、過剰包装されているものが多いことに気付かされます。
2050年まであと30年。30年後の海は専門家の予想通り、魚よりごみが多くなってしまっているのでしょうか。
地球は私達だけのものではありません。
私達の子供や孫やひ孫やそのまた先の子供達もお世話になるであろう大切な星です。
まだ見ぬ未来の人々に、できる限りきれいな状態でバトンタッチできるように、今できることを私達は精いっぱいやっていかなければなりません。
デザインや値段の手頃さで買い物をする時代から、地球の将来をじっくり考えた買い物の仕方へと変わる時代がもう到来しています。
一個人の頑張りは微力かもしれません。しかし何日、何カ月、何年と積み重なったとき、それは地球にとってとても大きな貢献になっていることでしょう。
未来を思いやり、地球を大切にすること。
これは現代を生きる私達に課せられた最大の使命かもしれません。
環境保全への第一歩。天然素材の洗えるラップ。繰り返し利用できて地球にやさしい優れモノです。
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